ストーカーに民事訴訟で慰謝料を請求できるのか?裁判事例や訴える流れ

ストーカーの被害を受けて精神的なダメージを受けた人は、慰謝料を請求したいと考えるのは当然だと思います。

ストーカー被害で精神的なダメージや後遺症に悩まされることもあります。警察沙汰にして、刑事罰を与えるだけでは気が収まらず、恐怖や苦しみを味わったその痛みの慰謝料をストーカーに請求するという選択は当然だと思います。また、それ以外の理由として、ストーカーに近づいてほしくないといった理由で民事訴訟を行うケースもあります。

では、実際にストーカーを民事で訴えて慰謝料を支払ってもらうことができるのでしょうか。今回は、ストーカーを民事で訴えたときの裁判事例や訴える流れなどについてご紹介します。

慰謝料請求とは?

そもそも慰謝料請求とは何なのでしょうか。知っておきたい慰謝料の基本的な知識を解説します。

精神的被害に対する損害賠償のこと

慰謝料とは損害賠償のひとつです。不法行為の被害者が加害者に請求できるものが損害賠償であり、そのなかに慰謝料が含まれています。

慰謝料は精神的な被害に対する損害賠償であると考えられているのが特徴です。被害者の受けた精神的な苦痛を金銭に換算して、加害者に請求することが認められています。

ただし、精神的なダメージを金銭に換算することは難しいため、慰謝料の額には明確な基準がありません。それぞれの状況や過去の判例などを総合的に考えて慰謝料の金額が決まります。

不法行為について慰謝料請求ができる

慰謝料の請求は民法によって認められている正当な権利です。民法では、不法行為が起きたときに、被害者は加害者に対して損害賠償請求できることが認められています。

不法行為とは、他人の権利や利益を違法に侵害するような行為のことです。ストーカー行為も不法行為に該当するため、ストーカー被害者は慰謝料請求することができます。

慰謝料請求は裁判所を通じて行われる

実際の慰謝料請求は、すべて裁判所を通じて行われます。裁判所は、訴状を受けて、被害者の出した証拠や主張などを聞いて、それをもとにして判決を下します。その結果、慰謝料請求が認められる場合もあれば、請求棄却となるケースもあります。

裁判官が慰謝料を決める

慰謝料の額は、裁判官が決めます。提出された証拠や主張を確認して、過去の判例も調べて、総合的に考慮したうえで裁判官が慰謝料の金額を判断します。慰謝料には明確な基準がないため、裁判官の価値判断が影響します。被害者の希望通りの金額を請求できないことも珍しくありません。

ストーカーに請求できるもの

ストーカーの加害者に対して請求できるものは慰謝料だけではありません。具体的に何を請求できるのかご紹介します。

実損害と慰謝料を請求できる

ストーカーに請求できる損害賠償には、実損害と慰謝料があります。慰謝料とは精神的なダメージに対する損害賠償のことです。一方、実損害とは、ストーカーの被害によって現実に生じた損害を賠償してもらうことです。したがって、実損害は、それぞれのケースによって請求できる金額が大きく異なります。

実損害に含まれるものとは?

たとえば、ストーカーの被害を受けた結果として精神的にダメージを抱えて、精神科で治療を受けたというケースがあります。この場合は、病院で治療を受ける際に支払った治療費をストーカーに請求できるのです。ストーカー行為を受けていなければ治療を受ける必要はありませんでした。ストーカーのせいで治療費が発生したため、その分の賠償を求めるのは、正当なことです。

ストーカーに自分の私物を壊されたというケースもあります。このように物の財産的な価値について損賠賠償を求めることも認められているのです。基本的には、壊された物の時価の分だけ請求できるとされています。

ストーカーに備えるために防犯設備を整えたというケースでも、費用を請求できるケースがあります。この場合は、一般的なレベルを超える過剰な防犯設備を設置していた場合です。ストーカーへの恐怖から防犯設備を大量に購入したというケースでは、大きな出費になるため、賠償請求が認められます。

ストーカーから逃れるために引越しをした場合は、その分の引越し費用の請求もできるでしょう。さらに裁判をするために雇った弁護士費用についても、賠償請求の際に同時に請求できます。

ストーカーに慰謝料をいくら請求できるのか?

実際のところ、ストーカーに慰謝料を請求すると、どのくらいのお金をもらえるのでしょうか。ストーカーから請求できる慰謝料の金額に注目しました。

数十万円から300万円程度まで

ストーカーから請求できる慰謝料の金額は、それぞれのケースごとに異なります。より大きな精神的ダメージを被害者が受けたと判断される場合に、慰謝料は高くなります。実際には、数十万円の慰謝料を請求できることもあれば、300万円程度の高額な慰謝料を請求できたという事例もあります。

基本的には上記の範囲内の金額になることがほとんどであると考えましょう。慰謝料の金額が100万円を超えるようになるのは、かなりストーカーの被害が深刻なケースです。

高額な慰謝料を請求できるケース

被害が深刻で悪質なものであれば、高額な慰謝料を請求できることが多いです。

たとえば、ストーカーが被害者を脅迫して、それが反復継続されたときには、高額の慰謝料が認められます。数ヶ月にわたって執拗につきまといをしたり、脅迫をしたりするケースでは、慰謝料の金額が100万円を超えることが多いです。客観的に考えて、被害者の精神的なダメージが深刻であると判断できます。

また、ストーカーの行為を本人に注意したり、念書でストーカーをしないと約束を交わしたりしたケースで、それでもストーカー行為が続けられた場合は、慰謝料が高額になりやすいです。ストーカー行為の結果、被害者が精神疾患にかかってしまい、生活に大きな支障が出たというケースも慰謝料は高くなります。上司と部下、教師と生徒などのように地位を利用してストーカーをしたケースも悪質であり、高い慰謝料を請求できた場合が多いです。被害者に落ち度がまったくないというケースも、慰謝料は高額になりやすいです。

慰謝料が減額されるケース

慰謝料請求の裁判をしても、希望した額から減額されるケースがあります。たとえば、被害者にも落ち度があったというケースです。

たとえば、加害者に対して思わせぶりな態度を取ってしまったならば、ストーカー行為をされた原因が被害者にもあると考えられます。ストーカー行為が短期間しか行われていなかった場合も減額されやすいです。身体的な接触がなくて、ストーカー行為が比較的軽微なものにとどまっていたケースでも、慰謝料は減額されます。たとえば、しつこく電話をかけ続けたという場合だと、身体的接触がなく、減額の要素があると判断されます。

示談金で解決する場合もある

実際には、裁判をせずに示談金で解決するケースもあります。被害者が加害者に対して慰謝料請求のために裁判をすると伝えると、加害者側から示談金による解決を申出てくるケースがあります。

裁判をするのは双方にとって負担が大きいため、示談金を選択する人も少なくありません。示談金の目安としては、ストーカー規制法違反による罰金の最高額である100万円がひとつの目安となります。実際には、示談金が10万円~100万円程度になることが多いです。

裁判をするためにかかる費用の目安は30万円程度です。また、裁判で慰謝料を請求するために時間的な負担もかかります。高額な慰謝料の請求を見込めないケースでは、民事裁判をするのはコストが大きいでしょう。

最終的には、被害者が示談金による解決で納得できるかどうかの問題となります。その際には、弁護士と相談をして、どういう選択をするのが自分にとってメリットがあるのか、じっくりと考えることが大切です。

慰謝料請求の実例

実際にストーカーの被害にあって慰謝料を請求したという人はたくさんいます。ストーカー被害における慰謝料請求の実例をご紹介します。

仕事を通じて知り合った女性に執拗につきまとった事案

男が仕事を通じて知り合った女性に好意を抱いてストーカー行為をしたというケースです。ストーカー規制法に違反するストーカー行為としてつきまといなどの行為を行いました。警察からも注意されたのですが、それでもやめずにストーカーを続けたそうです。また、頻繁に女性に電話をかけたり、駅で待ち伏せしたりするといった行為も繰り返しました。

こちらのケースでは、女性が男性に慰謝料1,000万円を請求しました。裁判で認定されたのは300万円のため、減額されるという結果となりました。それでも、ストーカー被害の慰謝料請求で300万円が認定されるのは珍しいことです。算定要素としては、女性側にはまったく落ち度がないことが認められ、男性の行為の内容は悪質であり違法性が強いことを考慮して、300万円という認定額となったのです。警察からの警告を無視してストーカー行為を続けたようなケースは、悪質と判断されます。

宅配便配達の男性が届け先の女性に対してストーカー行為をした事案

宅配便の仕事をしていた男性が、届け先の女性に行為を抱いて、何度も電話をかけたり、自宅を訪れたりするという行為を繰り返しました。その結果、女性はかなりの恐怖を感じてしまい、最終的には急性ストレス障害が生じました。

このケースでは、女性の請求額が300万円のところ、減額されて慰謝料100万円が認定されました。男性から繰り返しストーカー行為を受けて、急性ストレス障害が生じたことが考慮されました。

ただし、電話をかけて自宅を訪問したという行為のみで身体的な接触がない点で減額されました。ストーカー被害の慰謝料請求では、身体的接触の有無が重要視されることがわかります。

元依頼者が弁護士に対してストーカー行為などを行った事案

女性が弁護士に依頼をして、しだいに恋愛感情を抱いてしまい、告白したところ拒絶されたためにストーカー行為をしたケースです。こちらでは、女性の依頼者が第三者と協力して弁護士に対して執拗にストーカー行為をしました。さらに威力妨害行為や信用毀損行為も行いました。

こちらは被害者が400万円を請求したところ、実際の認定学は90万円となりました。待ち伏せや監視行為などのストーカー行為に加えて、弁護士に対して懲戒請求を繰り返し行ったことが悪質であるとして90万円という慰謝料が決定したのです。身体的な接触がなく、被害者である弁護士は特にストレス性の症状が出たわけではないことが、減額の理由と考えられます。

大学教授が学生に対してストーカー行為を行った事案

大学教授が教え子である学生に好意を抱いてストーカーをしたケースです。執拗に電話をして、求婚するといったストーカー行為を継続的に行いました。

こちらのケースでは、最終的に250万円の慰謝料が認定されました。大学教授のしたことが強迫行為であると認められたことが、慰謝料が高額になった理由です。大学教授という立場を利用して、相手が逆らえない状況で結婚を要求したことが、一般的なストーカー行為よりも悪質な性質のものであると認められました。

ストーカーを民事で訴える流れ

ストーカーから慰謝料を請求したいならば、民事で訴えましょう。そのときの流れについてご紹介します。

弁護士に相談する

ストーカーの加害者から慰謝料請求をする場合は、弁護士に相談するのが一般的です。

慰謝料請求の民事訴訟の手続きは、自力で行うことは不可能ではありません。しかし、専門的な手続きをしなければならず、ストーカーの被害を受けた証拠も何を集めるべきなのか自分で判断しめなければいけません。できるだけ高額な慰謝料を請求するためには知識やテクニックも必要です。そのため、慰謝料請求は弁護士に任せたほうがよいでしょう。

弁護士に相談すれば、それぞれの状況や過去の判例などからどのくらいの慰謝料を請求できるのか判断してもらえます。また、本人の代わりに弁護士が手続きを進めます。弁護士費用はかかりますが、手続きなどの負担がなくなり、自ら行うよりも高額な慰謝料を確実に請求できるようになるため、メリットは大きいです。

ただし、弁護士はたくさんいるため、誰に相談すればいいのかわからない人も多いでしょう。この場合は、過去にストーカーの案件を扱った実績の豊富な弁護士に依頼するとよいです。

証拠を集める

裁判では、ストーカーの被害を受けた証拠の提出が求められます。弁護士に相談すれば、どのようなものが証拠として認められるのか教えてくれるでしょう。ストーカーの証拠となるものは下記の通りです。

  • 相手から贈られた手紙、プレゼントなど
  • メールや通話、LINEなどの履歴
  • 相手からの脅迫や暴言を録音したもの
  • ストーカー行為を撮影した写真や動画
  • 加害者の個人情報(住所、氏名、年齢、勤務先など)
  • ストーカー被害を受けた日時や内容の記録
  • 目撃者の証言

また、慰謝料請求では、自分がどれだけ精神的ダメージを受けたのか証明することも大切です。被害の程度を示すことができるのは、下記のようなものです。

  • ストーカーに壊されたもの
  • 医師の診断書、治療費の領収書
  • ストーカー被害で生じた経費の領収書
  • 過去の念書

裁判の手続きを進める

証拠を集めることができれば、弁護士が裁判の手続きを進めてくれます。必要なことはすべて代理人である弁護士に任せることが可能です。

弁護士が訴状を提出すれば、裁判所と連絡をして法廷を開く日程を決めます。最終的に被告に書類が届けられれば、訴訟が成立します。口頭弁論が行われて、代理人である弁護士が意見を主張して、最終的に弁論の集結が宣言されて、判決が下されるのです。

ただし、場合によっては当事者尋問が行われるケースがあります。これは、裁判所が当事者から直接話を聞くためのものです。ストーカーの加害者と顔を合わせることになるため、心配な人も多いでしょう。最近では、裁判において被害者保護の制度が民事訴訟についても取り入れられるようになったため、事前に裁判所に伝えることで配慮してもらうことが可能です。

たとえば、原告と被告の間に衝立を設置した状態で当事者尋問が行われることもあります。また、ストーカーの被害が明らかで主張も妥当なものであれば、当事者尋問が行われないケースも多いです。

判決を待つ

最終的には裁判所が判断して慰謝料の金額が決まります。口頭弁論が集結してから2週間後に判決が下されて、被告と原告のところに書類が送られます。その内容に納得いかなければ、2週間以内に上訴することも可能です。控訴が行われなければ、判決が確定します。

民事でストーカーを訴えるときの注意点

ストーカーを民事で訴えるときにはいくつか注意しなければいけないことがあります。どんな点に注意するべきかご説明します。

時効に注意する

民事でストーカーに慰謝料を請求するときには、時効があることに気をつけましょう。ストーカー被害が判明して、加害者が誰かわかった日から3年で時効になります。時効を過ぎてしまうと、たとえストーカーの被害を受けた証拠が明確であったとしても、慰謝料を請求することができなくなります。

加害者がお金を払わないことがある

裁判の結果、慰謝料が決まったとしても、加害者が支払いに応じないことがあります。この場合は、別の手続きを進めなければいけません。裁判で決定した慰謝料を支払わない場合には、強制執行を行います。

強制執行とは、給料や預金口座を差し押さえる、あるいは不動産や自動車などの財産を差し押さえることで、慰謝料を請求できる行為です。ただし、強制執行で差し押さえることのできる財産には制限があります。たとえば、給料は基本的に手取りの4分の1までしか差し押さえられません。また、不動産や自動車の差し押さえは、競売のための費用がかかってしまうため、慰謝料がよほど高い場合以外は使われないです。

強制執行のための手続きについても弁護士に頼むことができます。

報復されそうなときは警察に相談する

裁判で慰謝料を請求した結果、相手から報復される可能性があります。再びストーカー行為をしてきたり、より悪質な行為をしてきたりするケースもあります。この場合は、すぐに警察に相談しましょう。ストーカー規制法に違反している行為であれば、すぐに逮捕してもらうことができます。

まとめ

ストーカーの被害を受けると精神的に大きなダメージを受けてしまいます。また、治療費などで余計なお金を使ってしまうことも多いです。これらの損害については、民事訴訟によって慰謝料を請求することで取り戻すことができます。ストーカーの被害を受けた人は、民事で訴えることを検討してみましょう。